「ただ五文字だけ」 放浪で着いた島。 ギュニアモデルに、ぽつんと倒れているピキの画像。 「…………」 単なるデータだとは分かっていても、なにか、やりきれないものを感じてしまう。 付き合いでブルーや『森』へ狩りに行った時にもいくつかの死体を見たが、やはり慣れはしない。 慣れていいものでもないとは思うけれど。 「…………」 倒れたピキに少し遅れて、三匹のリヴリーが降って来た。 ミミマキムクネと、ムシチョウと、もう一匹はよく見慣れた――自分の飼っているリヴリー。 「…………」 あいさつでもするべきなのか、このまま黙って別の島へ飛んだほうがいいのか。 ぐずぐずと悩んでいる間にムシチョウから吹き出しが出てきた。 『こんにちはw』 『こんにちはです。放浪の方ですか?』 続けてミミマキの吹き出しも表示される。 話しかけられたからには黙って出て行くわけにも行かないだろう。 「/log」とジュモンを入力してから、適当な言葉を打ち込んだ。 『こんにちはー。南無阿弥陀仏、ですね』 『モンが来たみたいで、戦いに巻き込まれちゃったんですよ(汗)』 そう発言するミミマキの裏で、ムシチョウの方が『スズメバチなんか嫌いだッ!ww』と言っていた。 『いや、スズメバチじゃなくてクモとかカマキリかも知れないですよ』 などと無粋な発言をすることはせず、無難なところで『ですか。大変でしたね……』とだけ返す。 『本当迷惑な話ですよねー。やってられませんてもうww』 笑い話にするしかないという心境なのか、本当に気にしていないだけなのかは分からないが、ムシチョウは軽めの受け答えをしている。 一方、ミミマキは見るから(読むから?)に凹み気味だった。 『旅行中預かるって私から言ったのにごめんね(´・ω・`)』 『どうしようもないことなんでしょ?気にすんなってw』 『でも、レベル上げにパスまで教わっといてorzせっかくの初リヴなのに』 『ん、いいよいいよwまだピキの配布終わってないしww』 話を聞く限り(読む限り?)どうやらこのピキ、ムシチョウの側のセカンドらしい――いや、ピキが初リヴというからにはムシチョウがセカンドで、ピキがメインなのかもしれない。 ピキにカーソルを当てると、飼い主とリヴリー本体の名前の下に「Lv10」と表示された。 ムシチョウをクリックする。 Lv47、生年月日は2005.3.3。 ご丁寧なことに、G.L.Lに加入済みだった。 「…………」 どう見てもムシチョウが初リヴのように思えるのだが。 「…………」 そんなどうでもいい疑問は、ミミマキの発言であっさりなくなった。 『ピキじゃなくても、そのムシチョウあげるよ?今ならGLLも付いてくるよ?(・ω・`)』 『あえて言おう、ピキが気に入ったと!ww』 どうやらムシチョウはミミマキ側のサブリヴだったらしい。ややこしいことをするものだ。 『まあそんなようなことがあったのが三日くらい前の話です』 『へー』 たった二文字の相槌を打ったのは、絆創膏を貼ったブラッグドッグ(の、飼い主)だった。 「…………」 二時間前にメンテナンスが終わったばかりなのに、もう狩りに行ったのかこの人は。 訊くと『そりゃまあ。モン狩りのためにリヴやってるようなもんだし』との返事。 なんというか、返す言葉もない。 『まあそんなことだろうと思ってましたとも、ええ。狩りに行くの好きですもんね』 『二番目の町まで宿屋に泊まらずにスライム千匹虐殺するのが趣味だから』 『よく分からない例えですけど戦闘バカだってことは分かりました』 『戦闘のないゲームなんて炭酸の抜けたコーラだろ』 『炭酸の抜けたコーラ好きですよ。めちゃくちゃ甘くて』 いつも通りに微妙なノリの雑談を交わしているうちに、話題がそれてしまう。 『いや、コーラなんてどうでもいいんです』 『どうでもいいとは失礼な、ペプシの中の人に謝れ!』 『コカコーラ派じゃない人は久しぶりに見ました、いやいやそうじゃなくて!』 なんだか「それてしまう」というより「そらされている」ような気がしたのとほとんど同時に、ブラッグドッグが『悪い、ちょっと調子乗った。続けていいよ』と発言した。 「…………」 心の中に芽生えた気持ちを抑えつけて、キーを叩くことに専念する。 『いや、だからどうってわけじゃないんですが。そこんとこのマナーとかって、どうなのかなあとか』 彼からの発言はない。 どうやら待ってくれているらしいと踏んで、続けることにした。 『島モン狩りのマナーって、どんな感じなのかなあと。で、一番そういうのに詳しそうな人を呼んでみたんですが』 『なんだ、これ笑い話じゃなかったのかよ』 ……笑い話? 思いも寄らないその言葉にどう反応していいか分からないまま画面を見つめる。 ブラッグドッグの吹き出しに、呆れたような調子で――顔文字もなにもないので、印象として、だけれど――新しい文字が表示された。 『お前って島モン狩ったことないのか? 島モンは、自分を攻撃した奴にだけしか攻撃しないんだよ。島モン狩りに巻き込まれるなんてありえない』 正直なところ、初耳だった。 放浪途中でスズメバチやジョロウグモ、それからオオカマキリなんかに会うことは何度となくあったが、その度にすぐ逃げ出していたのだ。 戦ったことがあるのは『森』の絶対に攻撃してこないモンスターか、あるいは無差別に攻撃してくるモンスターぐらいのもので――てっきり、島に来るモンスターも似たようなものだと思っていたんだけど。 『だから島モンにやられたなら、そのピキが島モンに攻撃したせいだろ。狩る側のせいにすんなこのやろーって感じ』 『つまり……ミミマキの飼い主が預かってたピキで島モンに攻撃して、そのせいで死んでしまった、ってことですか?』 『いや、それも無い』 言われた言葉を要約して言うと、ブラッグドッグは首を横に振った(実際にそんな動きをしたわけじゃないが)。 「…………」 あんたの言葉の要約じゃないか。 自分で自分の言ったことを否定してどうするんだ! 『んー、なんていうのかな。それは島モンと戦って戦死したとするならって話だから』 『戦死したとするならもなにも、違うんですか?』 『そのピキって10レベなんだろ? そのレベルじゃ投石すら覚えてないはずだし』 『……あ』 それはまあ、その通りだ。 なんで、そんな簡単なことに気づかなかったんだろう。 『攻撃できるわけでもないんですね……じゃあ、ブルーとかに行ったのかな』 『だとしたら、島に死体があるのはおかしいだろ。死体は戦死した場所に残るはずだ』 『なら、』 一体、あのピキはどうして死んでしまったのか。 こちらから問いかける前に、彼は至って単純明快な解答を示した。 『餓死だろうな。世話すんの、忘れたんだろ』 『でもそんなこと言うわけにもいかなくて、ですか』 『そうそう。パス教えあったりしてるとこ見るとオフ友だろうし、まあばれたらいろいろあるんじゃないのか?』 『嫌ですね、そういうの』 『そんで相手は初心者なんだろ? それなら適当にそれっぽいこと言っとけば騙せるしな』 それから彼は少し間を空けて、もう一つだけ付け加えた。 『G.L.Lに入ったムシチョウをあげるっていったのも、たぶん罪滅ぼしのつもりだな。少しでも自分が心苦しくないようにっていう』 『友情もなにもあったもんじゃないですね』 『ん、だから笑い話かなあって思ったんだよ。最初はな』 画面から目を離して、天井を見上げる。 「…………」 まったく気が滅入る話だった。 笑い話としても最悪の部類に入るだろう。 よくある話、よくありそうな話だけに笑えない。 どこに笑っていいか、分からない。 誰かの吐いた嘘を暴いたって、いいことなんかなにもないし、いいものなんかなにも残らない。 「…………」 そろそろ狩りに行く、と彼は言った。 『チキンレースしようぜ。先に森から逃げ出した方が負け、もちろん攻撃は反則で』 とのお誘いを丁重に断って、ブックマークを開く。 カーソルを合わせたのは、あの日放浪で飛んだ――あの島の名前。 『こんにちはー(´∀`*)』 『こんこんですw』 ミミマキと生後二日のピキが、それぞれ吹き出しにあいさつの言葉を表示して見せた。 『こんにちはー』 いつも通りに返しながら、ふと、島のプロフィール欄を見やる。 二代目になっちゃいました。こんなとこで戦わなくてもいいじゃないかww ひどいやww 「…………」 『にしても本当、酷いよ(´・ω)(ω・`)ネーwwピキもらえる期限ぎりぎりだったしwwあぶねww』 ピキから吹き出しが出た後、奇妙な間が少しだけあった。 それから。 それから、ミミマキの発言が表示される。 『本当だよ(´・ω)(ω・`)ネー』 複雑ななにかを感じたけれどなかったことにした。 「…………」 なにも言わないしなにも伝えない。 打ち込むのは、ただ五文字だけ。 『そうですね』 島名:終わりの場所/飼い主名:St/リヴリー名:ニクラス |